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大阪高等裁判所 昭和32年(く)33号 決定

少年 K(昭和一三・一・二一生)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の理由は、

一、今般の窃盗事件で主犯の役割を演じたと思われる共犯者Oは、帰宅を許可されたのに、本少年Kに対しては少年院送致決定がなされたのは、公平を欠くものである。

二、犯情としても、本件は偶発性を帯びたもので、本少年に反省の余地が多分にある。従つて一段の調査がなされていたならば、情状酌量の余地があつたものである。

三、然るに本審判、決定前に保護者の意見が充分に聞かれていない。即ち本少年調査官は申立人である保護者に一回面接したが、本少年を主犯なりとの先入観で保護者の意見を何等参酌せず、又審判に当り、裁判官も保護者の意見を事前に聴取しなかつた。

四、本少年は再犯ではあるが、その前犯は恐喝と窃盗で前者は友人甲が乙より腕時計を借用入質した折、傍にいただけで、後者は友人の誘いに応じ、運動具を無断借用のため、トレーニングパンツ一着持ち帰つたものである。

よつて本抗告に及んだものである。

よつて記録を精査し案ずるに、本保護事件決定につき、審判開始決定前、調査官において保護者である本件申立人の陳述も十分聴き、審判期日においても裁判官は右保護者の陳述を聴き、その他十分調査の上、本決定がなされていることが認められるので、抗告理由第三項は理由とならない。なるほど、本件非行事実につき、共犯者Oに対しては、保護観察所の保護観察に付する旨の決定があり、本少年Kとはその処遇を異にしている。しかし少年保護事件決定は、非行事実を始め、少年の経歴、素行、性格、環境その他各般の事情を参酌して各個に判定すべきものであるから、共犯関係にあるものでも、これに対する決定内容が異ることがあるのは当然である。しかして本件窃盗において、抗告人所論のように、共犯者Oが主犯の役割を演じているとは認められない。本少年とOの関係は、その犯行の原因、動機、態様、犯行後の役割等甲乙の差異は殆んど認められない。ところで本少年の非行状況は、共犯者Oに傷害の前歴一回の外は、窃盗事件は勿論、他に非行歴のないのに比し、原決定表示のとおりで、数々の非行歴があり、昭和三十一年四月九日には大阪家庭裁判所で二回の臓物牙保、一回の窃盗の非行事実で、保護観察所の保護観察に付する旨の決定を受け、保護観察中のものである。その非行性の強いことを始め、その家庭、生活環境、本人の性格、並びに本件非行事実の態様等各般の情状によれば、原決定の中等少年院送致の処分は已むを得ぬところで、これを目して不当とすることはできない。

よつて本件抗告は理由ないものとし、少年法第三三条第一項により主文のとおり決定する。

(裁判長判事 山本武 判事 国政真男 判事 三木良雄)

別紙(原審の保護処分決定)

主文および理由

主文

少年を中等少年院に送致する。

理由

非行事実

少年はOと共謀のうえ、大阪市浪速区日本橋筋三丁目四五番地にある百貨店「松坂屋」こと株式会社松坂屋大阪店で写真機等を盗み出そうと企て、昭和三二年六月二〇日午後五時過頃同店三階西南隅の物品倉庫に身を潜めて監視人のいなくなるのを待ち、翌二一日午前五時頃同階にある貴金属売場において、同店保安係長木下義明の保管する写真機三台、腕時計六個(以上時価合計一一一、〇〇〇円相当)を窃取したものである。

(適条)

刑法第二三五条。

(処分理由)

中学一年を終えるまでの少年は、比較的問題を起すことなく学校での成績も良好であつた。ところが中学二年に進級する際不良性を有するSと交遊し始め、漸次不良性を帯びるに至つたが、その非行歴も、中学三年のときなした真鍮等の窃盗(昭和二八年三月二〇日当庁で審判不開始となつた。)を初発として、覚せい剤取締法違反、窃盗未遂、贓物牙保、暴力行為等処罰に関する法律違反等の非行を繰り返し、非行癖の硬化に陥つてしまつた(以上の事情は本件及び前件の各少年調査表記載による。)。その直接の原因は、少年が堺市内に在住する不良グルーブとの交友に深入りしていたことにあるが、それよりもつと根本的なものは少年の資質にあるものと考えられる。即ち、本件及び前件の各鑑別結果通知書の記載によれば、少年の知能は平均知上級(I、Q、一二七)にあるが幼いときから両親の偏愛をうけて成長したため、欲求抑制機能が弱く情意面の極めて不安定な人格構造を形成し、集団所属の欲求が強く他人の悪影響をうけ易い性格となり、また強度の外向性性格で内省力に劣り且つ道徳感情の乏しいことが明らかである。少年及び保護者は、少年の非行が検挙される度毎に更生を誓い、立ち直ろうと努力したことであろうが、在宅を以ては右資質を改善するのに不充分であつた。とりわけ窃盗、臓物牙保等の前件では、保護観察に付されたのに、その後も職場に落ち着けず勤先を転じ、不良交友も絶えなかつた。そのうち家庭にも落ち着けなくなつたため神戸方面へ家出することを決意し、その資金を得るために、先づ担当保護司に嘘を云つて二千円借り受け、次に本件窃盗を敢行したことよりみて、その人格的欠陥は相当根深いものであることが推測される。少年の少年鑑別所での行動(行動観察表参照)や審判廷での態度においてもそのことを看取することができる。そこで少年を中等少年院に収容のうえこれに矯正教育を授けるのが妥当と認め、少年法第二四条第一項第三号、少年院法第二条第三項を適用して主文のとおり決定する。(昭和三二年七月二二日 大阪家庭裁判所 裁判官 芦沢正則)

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